樋口一郎  私は沢登りも山スキーもやらないので、ハイキングの延長というか自分のできる範囲で自然あふれる原始境といえる場所に至る事ができる、そんな穴場探しに最大の魅力を感じます。


-  樋口さんはヤブを好んでいるわけではないのですね。


樋口  ヤブは手段であって目的ではありません。ヤブは薄ければ薄いほどいい。しかし、ヤブが薄いと人が踏まれて無いことはあまり無いので、結果的に濃いところに行ってしまいがちですね。そういうところは、そこに至るルート上もすばらしいいろいろなポイントがある。まったく事前の情報がないなかで自分が発見する喜びですかね。

 私は『沢登り』の対極の概念で『尾根下り』を提唱しております。尾根下りは次々に枝分かれする、いわば巨大な迷路であり、一本間違っただけでももう大失敗。完璧な地図読みと現場判断が求められる、ささやかなサバイバルゲームといえます。そしてその場で求められるものは「自然を読む力」に尽きますし、山の自然を最も堪能できる点においては、対極とは言いながら『沢登り』と『尾根下り』は案外似たような概念を持っているのではないでしょうか。残念ながら愛好者の数は雲泥の違いですが。 (p.37-38)